国際物理オリンピック2022 理論問題1 磁石 概要紹介編

7月10日から日本で国際物理オリンピック(International Physics Olympiad = IPhO)が開催されています。コロナ禍だったこともあり、2020年以降はオンラインで開催されていたのですが、久しぶりにオンサイトでの開催となりました。

私自身、高校生の時に IPhO に参加した経験があり、懐かしく思い出しました。久しぶりに問題をチェックしてみたので、これを機に問題紹介をしたいと思います。今年の問題は現時点では公開されていないので、去年の問題について見ていきます。

目次

IPhO2022 理論問題1 磁石

昨年2022年の IPhO はスイス主催でオンラインで開催されました。(もともとはベラルーシで開催される予定だったようですが、政治的な理由により変更されたようです。)

この記事では、IPhO2022 の理論問題1を紹介していきたいと思います。解法の詳細には踏み込まずに概要を説明します。

実際の問題を確認したい方は、物理チャレンジのホームページ(日本語訳)か IPhO2022 のホームページ(英語原文)をご覧ください。以下の紹介では問題のネタバレを含みますので、自力で解きたい方はご注意ください。

問題の概要

理論問題1は電磁気学の分野から磁石についての出題です。ネオジム磁石のような強力な磁石を近づけたりくっつけた際の振る舞いについて調べる問題です。

以下の3つのパートに問題が分かれています。
Part A: 磁石間の相互作用(4.5点)
Part B: 強磁性体との相互作用(3.5点)
Part C: (反)強磁性秩序(2.0点)

余談ですが、国際物理オリンピックの試験ではそれぞれの問題の配点が試験問題に明記してあり、コンテスタントはそれを参考にしながら時間配分を決めることになります。この問題は、前の方のパートが比較的重めの問題となっていて、最初の方からそれなりに難しい問題があり、そこで躓いて時間をロスすると厄介なことになります。

以下では、それぞれのパートについて紹介していきたいと思います。

Part A: 磁石間の相互作用

このパート内で問題が前半と後半に分かれています。

前半では、100円玉サイズの磁石2つを重ねるように近づけた際にかかる力を計算します。磁石の間の距離が一般の場合は計算が複雑になるので、十分に離れた場合と近づいた場合でそれぞれ近似的に力を計算します。5mm しか離れていない時にかかる力は、20cm 離れた時にかかる力の約1,000倍(!)であることがわかります。

後半では、直径 5mm の球体のネオジム磁石を吊るしながら繋げていきます。重力に引っ張られるために繋げられる数には限界があるのですが、いくつまで繋げられるかを計算します。なんと、1320個も縦につながるようです。

Part B: 強磁性体との相互作用

このパートでは、前のパートで使った磁石と、強磁性体(鉄などの磁石にくっつく物質、以下は簡単のため鉄として話を進めます)との間の相互作用について考えます。

鉄板に磁石を近づけた際には、あたかも平面で鏡映しにした場所に磁石があるかのような力が働くという性質があります。この性質を利用すると、鉄板と磁石の間に働く力を、磁石と磁石の間に働く力を計算することで求めることができます。鉄板と球形の磁石をくっつけた際に磁石の向きが鉄板に垂直となることを示す小問や、2つの鉄円盤で磁石を挟んだ時に引き離すのにどれだけの力がいるかを計算する小問などがあります。

Part C: (反)強磁性秩序

このパートでは、球形の磁石を平面上にたくさん置いた時にどのようにくっついて並ぶか(どのような秩序を作るか)について考えます。

正方格子状に並ぶ場合と三角格子状に並ぶ場合と2つの安定な配置があります。磁石にかかる力を計算することで、正方格子状に並ぶ際には、隣り合う行(または列)の磁石は向きが反対になっている(反強磁性秩序を持つ)ことがわかります。一方で、三角格子状に並ぶ際には、磁石の向きが揃っている(強磁性秩序を持つ)ことがわかります。

まとめ

この記事では、IPhO2022 理論問題1の磁石に関する問題について紹介しました。題材としてはシンプルですが、遊び心があり面白い問題だと感じました。

今回の紹介は概要的なものでしたが、次回はテクニカルな面に踏み込んで紹介するつもりです。

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